【ミラノ・コルティナ五輪】は“黒字五輪”なのか?分散開催のリアルを数字で検証

冬季五輪は赤字の代名詞――そんなイメージを覆せるのかが、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの最大の論点です。

ソチのような巨額投資型ではなく、既存施設活用と分散開催で“堅実路線”を打ち出した今大会ですが、本当に黒字に近い優等生モデルなのでしょうか。

数字を追いながら、少し意地悪な視点も交えて検証していきます。


大会費は本当に“優等生”?16億→17億ユーロの意味

まず運営費、いわゆるOCOG予算は当初約16億ユーロから17億ユーロへと約1億ユーロ増加しています。

割合で見れば約6%増と比較的穏やかで、「五輪としては優秀」と評価する声もあります。

ただし増額理由は分散開催による輸送費や運営コスト増であり、つまり“安くするための分散”が完全にコスト抑制になっているとは言い切れません。

それでも過去大会のような倍増、三倍増といった事態ではない点は確かに評価材料であり、数字だけを見ると今回の大会はかなり統制されている印象を受けます。

問題は、この17億ユーロが本当に最終着地なのかという点で、五輪史を振り返ると「最終版」と書かれた予算が更新されるのは珍しくありません。


インフラ30億ユーロは“未来投資”か“先払い請求書”か

運営費とは別に、道路や鉄道、競技施設改修などを含むインフラ投資は約30億ユーロ規模と分析されています。

こちらは政府や自治体負担であり、OCOG予算とは別枠ですが、国民から見れば同じ財布から出ていくお金です。

五輪後も使われるなら“未来投資”ですが、維持費ばかりが残れば“先払い請求書”になります。

アルプス山岳地帯の交通整備は観光振興という名目もあり、長期的には地域経済にプラスとの期待もありますが、利用率が想定を下回れば重荷になります。

レガシーとは美しい言葉ですが、維持管理費という現実的な単語もセットで考える必要があります。


経済効果53〜61億ユーロは本当に儲け?試算のカラクリ

Ifis銀行は約53億ユーロ、イタリア企業連盟は約61億ユーロの経済効果を試算しています。

観光客は約250万人、スポンサーは55社とされ、数字だけ見ると“優良案件”に見えます。

しかし経済効果という言葉は魔法のワードで、観光消費だけを数えるのか、インフラ投資を含めるのか、税収増まで加えるのかで数字は大きく変わります。

つまり53億か61億かという議論以前に、「どこまで足しているのか」を確認しなければ比較は成立しません。

それでも、少なくとも5〜6兆円規模といわれたソチのような超大型投資モデルとは構造が異なり、支出に対して効果が極端に乖離しているわけではない点は注目です。

黒字かどうかは定義次第ですが、“破綻型”ではないことは確かと言えそうです。


ハーフパイプはいくら?“数十億円の雪の壁”問題

現時点でハーフパイプ単体の正式建設費は公表されていませんが、過去大会では数十億円規模と推定されています。

ソチでは20〜30億円規模、平昌では10〜20億円規模とされており、今回も同程度の可能性が高いと見られます。

わずか数日の競技のために巨大施設を整備するという事実は、五輪のロマンと現実のギャップを象徴しています。

ハーフパイプはなぜ高いのか

巨大な人工構造物であるうえに、精密な傾斜設計と安全基準が求められるため建設コストが高騰します。

さらに雪不足が進む近年では人工雪の製造コストも上乗せされ、気候変動がそのまま予算に反映される構造になっています。

レガシーとして活用できるのか

大会後にトレーニング施設や観光アトラクションとして活用できれば価値は生まれますが、維持費とのバランスが課題になります。

「2週間のスターか、20年の維持費か」という問いは、冬季五輪に常につきまとうテーマです。


放映権は誰のもの?欧州公共放送の静かな攻防

五輪の最大収入源は放映権であり、IOCは欧州ではEBUとWarner Bros. Discoveryとの契約で権利を管理しています。

冬季は夏季より規模が小さいとはいえ、10〜15億ドル規模が動く巨大市場です。

イタリア国内では公共放送RAIの財政問題も絡み、五輪放送を誰がどう負担するのかが議論になっています。

スポーツの祭典の裏側で、テレビ局の経営戦略と政治判断が交錯しているわけです。


250kmの距離が生む輸送コストと環境負荷

ミラノとコルティナは約250km離れており、日本で言えば東京と名古屋に近い距離感です。

分散開催は既存施設活用という合理性がある一方で、選手や観客、スタッフの移動コストを増やします。

警備体制も二重化しやすく、見えにくい固定費が積み上がる構造です。

IOCは持続可能モデルと説明しますが、持続可能かどうかは大会後の財務報告が答えを出すでしょう。


気候変動と人工雪ビジネスの拡大

アルプス地域では積雪量の減少が指摘されており、人工雪への依存度は年々高まっています。

人工雪は水資源と電力を大量に消費するため、環境負荷とコスト増の両面で課題を抱えます。

2030年以降、安定して冬季五輪を開催できる都市が限られるとの研究もあり、今回の大会はその試金石とも言えます。

五輪はスポーツイベントであると同時に、気候変動時代の実験場でもあるのです。


結論:黒字かどうかより“構造”を見るべき

ミラノ・コルティナ冬季オリンピックは、過去の膨張型モデルとは異なる堅実設計を目指しています。

ただし分散開催による輸送費増、インフラ30億ユーロの負担、人工雪依存といった課題も同時に抱えています。

黒字か赤字かという単純な二択ではなく、「持続可能な五輪モデルを本当に作れるのか」という問いこそが最大のテーマでしょう。

五輪は2週間ですが、財政とレガシーは何十年も続きます。

あなたはこの“堅実五輪”、成功モデルになると思いますか。