【情報戦を制するのは誰か】中国J-15レーダー照射事件、日本が「世界に発信すべき理由」

2025年12月6日、中国海軍空母「遼寧」艦載のJ-15戦闘機が、沖縄本島南東の公海上空で航空自衛隊F-15に対し火器管制レーダーを照射した。
この行為は単なる威嚇ではなく、攻撃直前を意味する極めて危険な行動とされている。
しかも照射は一度きりではなく、約30分間に及ぶ異例の長さだった。

では、なぜこの事案は「危険な挑発」と評価されるのか。
中国が主張する「訓練妨害」とは何を意味し、日本政府はなぜ「冷静かつ毅然」という表現を選んだのか。
さらに小泉大臣の発言が示す問題の本質、そして日本と中国の主張がどこで食い違っているのかを整理すると、見えてくるのは軍事衝突以前に始まっていた情報戦の姿だ。
本記事では、レーダー照射の技術的意味から両国の主張比較国際社会への発信の重要性までを、データとともに掘り下げていく。

事件は「軍事的挑発」だけでは終わらない

中国空母「遼寧」から発艦したJ-15は、航空自衛隊F-15に対し火器管制レーダーを断続的に照射した。
火器管制レーダーとは、目標を識別するための探索レーダーとは異なり、攻撃を前提に照準を固定する装置だ。

2013年に起きた艦対艦レーダー照射事件でも国際問題になったが、今回は空対空、しかも戦闘機同士。
防衛関係者の間では「偶発的衝突のリスクは当時より高い」との見方が強い。


なぜ30分のロックオンが「異例」なのか

今回の照射は2回行われた。
特に問題視されているのが、2回目の約31分間という異例の長さだ。

通常、スクランブル対応でのレーダー照射は数秒から長くても数分。
30分という時間は、誤操作や一時的トラブルでは説明がつかない。

防衛の世界ではよく
「3分なら事故、30分なら意思表示」
と言われる。
つまりこれは、「撃てる状態にあることを、あえて長時間見せつけた」というメッセージ性の高い行動だった。


中国の主張はどこが変化しているのか

中国側の主張は一貫しているようで、実は少しずつ形を変えている。

  • 日本機が訓練空域に接近した
  • 事前通告を無視した
  • レーダー照射は一般的行為

この論点の移動は、情報戦でよく使われる手法だ。
SNSの議論でも、気づけば「最初の話題とは違う話」をしていることがあるが、あれと同じ構図である。


【主張比較表】日本と中国、何が食い違っているのか

ここで、両国の主張を整理してみよう。

項目日本政府の主張中国政府の主張
事案の性質極めて危険な挑発行為正当な対応
レーダー照射火器管制レーダー=攻撃直前行為一般的な行為
時間約30分は異例で危険問題なし
事前通報ノータム等の通報なし通告済み
問題の本質長時間のロックオン日本側の訓練妨害
国際評価緊張を高める行為日本が世論を誤導

この表を見ると、両国は同じ事実を見ながら、まったく違う物語を語っていることが分かる。


日本政府はなぜ「冷静かつ毅然」を強調するのか

高市首相や防衛当局が繰り返す「冷静かつ毅然」という表現。
一部では「弱腰」に見えるという声もあるが、実はこれは国際社会向けの戦略的表現だ。

国際政治の場では、感情的な反論は支持を得にくい。
声を荒げた側が、第三国から「問題を大きくしている当事者」と見られることも少なくない。


小泉大臣の発言が示す「問題の本質」

今回の情報戦で重要な役割を果たしているのが、小泉大臣の発言だ。

小泉大臣は
「事前通報の有無に関わらず、本件の本質は約30分にわたる火器管制レーダー照射だ」
と明言している。

また、中国側が「自衛隊機からのレーダー信号を感知した」と主張した点についても、
「自衛隊機がレーダーを使用した事実はない」
と明確に否定した。

ここで重要なのは、感情論ではなく、論点を一点に絞っていることだ。
情報戦では、争点を増やした側が不利になる。


「一般的行為」という中国の説明は通用するのか

中国は火器管制レーダー照射を「一般的行為」と位置づけている。
しかしF-15側は「MISSILE GUIDANCE」警告を受信している。

例えるなら、
包丁を腰に下げている人と、包丁を振り上げてこちらに向けている人。
同じ道具でも、受け取る側の意味はまったく違う。


情報戦で沈黙する国は、存在しないのと同じ

中国は事案発生後、迅速に自国の主張を発信した。
一方、日本は慎重に情報を整理しながら説明を行っている。

だが国際世論では、「最初に提示された説明」がそのまま定着しやすい。
SNSで最初の投稿が空気を支配するのと同じだ。


世界にどう発信すべきか、日本に残された課題

日本に求められるのは、感情的な反論ではない。
時間・距離・警告表示といった客観データを、英語を含む多言語で整理し、淡々と発信することだ。

「言わなくても分かる」は、国際社会では通用しない。
情報戦とは、声の大きさではなく、
先に、正確に、分かりやすく伝えた側が主導権を握る戦いなのである。



中国は高市首相の台湾有事に関する発言以降、挑発的な行動を繰り返している。今回の火器管制レーダー照射は、その延長線上にある行為と見てよいだろう。ロックオンとは、相手を完全に射程に収め、引き金を引くだけの状態だ。それを約30分間も続けたとなれば、偶発的な事案ではなく、明確な意思を伴った行動である。
その最前線に立たされたパイロットの精神的負担は計り知れない。警告音が鳴り続ける中で冷静な判断を保ち続けることは、並大抵のことではないだろう。

しかし、ここで感情的にやり返せば、事態は一気に泥沼化する。軍事的応酬は、中国が望む「緊張のエスカレーション」に乗せられるだけだ。だからこそ、日本政府が示す「冷静かつ毅然」という姿勢は理にかなっている。

重要なのは沈黙ではなく、冷静な発信である。中国はすでに情報戦を仕掛け、自らの主張を国内外に拡散している。日本もまた、事実とデータに基づき、国際社会に向けて粘り強く説明し続けなければならない。
武力ではなく言葉で主導権を握れるかどうか――それが、今回の事案で日本に突きつけられている本当の課題なのだ。